はじめてのマウイ(その4)


さっきは確かに同じ便に乗っていたらしきグループもそこにいたのだが、気がついてみると誰もいなくなっている。心配になってあらためて別のブースも見てみたがやはり出てきた形跡はない。途方にくれてどうすればいいのか考えたが、ここはオアフと違って日本語が殆ど通じない。さっきのH.I.Sの係員に聞きに行こうかとも思ったが、戻ってまた聞くのも面倒だ。そもそも日本語が話せるとは言っても日系人のそれで流暢ではあるが、やはり日本人とは少し違う。するとその手荷物カウンターの傍らに空港職員らしき女性が立っている。ひょっとしてこの人ならわかるのではないかと思い、近づいて話してみた。

「あの〜、荷物がでてこないんですが。。。」
するとその女性職員
「アイ キャンノット スピーク ジャパニーズ」とのたまった。一瞬目の前が真っ暗になったが、こちらの動揺から言わんとしていることがわかったようで手荷物の引換券を見せろというような事を言った。こちらも英語が拙いので、喋るのは殆ど無理だが何とか聞き取れるものはある。恐らくそう言われたであろう手荷物の番号が入った券というか、シールを見せるとその女性が探してくるからここで待ってろと言う。その手荷物シールには帰りの航空券の引換券がついている束に貼ってあったのでそのままどっかに持ってかれちゃうんじゃないか?と正直不安もあったが、他にどうしようもないので言われるがままにその場で待つことにした。やがてその女性が戻ってきたがやはりどこにも無いようであった。すると女性はこちらに来いという感じでその手荷物受け取り所の端の方にあるブースに向かって歩いていった。

一階のそのブースは特に誰もいなかったためか、電気も消されていたが
その女性が中に入り電気を点けた。中から窓を開けてカウンター越しに
対面の形になったが、一枚の用紙を取り出してそれに何か簡単に書いた
あと、それをこちらに手渡した。どうやら紛失届用紙のようだ。
聞けばあとで私がホテルに届けるから、これに名前と住所を書けという
ような事を言っている。きっと言葉のあやというか、向うではそう言うのだろう。
『私が届けるって、ホテルまで結構離れてるはずなのに、本当にあなたが
ホテルまで来てくれるのか?ここの仕事どうするんだ?』と突っ込みたかったが、
そこまでの英語が話せなかったので、というか相手の言う事を聞き取るのが
精一杯で、そこまでの余裕は無かった。

住所と名前を書いて、その用紙を返すと、ちょうどファミリーレストランにある、
お薦めの品を載せたような、A4版くらいのカードを見せられた。
それには紛失した荷物が識別できるように、いろんな形態のトランクや
スーツケースの絵が描かれていた。細君のと合わせて二つなくなっているので、
それぞれの特徴と色を聞かれたままに応えていくと、その女性職員はその用紙に
手際よく書き込んでいった。一通りこちらのトランクの確認と滞在先のホテルの
確認が済むと、女性職員は、『OK、後は任せろ』みたいな感じだったので、
(実際にそう言ったのかどうかははっきりわからなかったし、決して不安も拭い
去れなかったが)こちらもそれを信じるより他は無かった。

だけど初めての国というか土地で、言葉もよく通じないのは、これほど
不便だとは思わなかった。オアフで乗り継ぎ便のところまで案内してもらう前に、
H.I.Sが携帯電話の無料貸し出しをやっていたのだが、そのときは細君と
ずっと一緒に行動して、他に誰と話すことも無いだろうから不必要だと思って
断ったのだが、こんなことなら借りておけば良かったとそのときになって後悔した。

もともと外国のというか、アメリカの人間は警官だって信用できない奴がいると
思っているので、見ず知らずの人間を信じろという方が無理である。
ハワイだからアメリカ本土と比べたら相当違うとは思うが、それでも
こちらが外人であることには違いない。もちろん、アメリカ人はみんな
信用できないなどというつもりももちろん無いのだが。