はじめてのマウイ(その28)

 朝が早かったため、ホテルに戻ってきた時間も比較的早かった。今日の夕食はマウイ最後の夜を飾るべく、昨日のうちに予約を済ませてあったので、あとはこれといった心配なく残った時間遊ぶだけである。ただ細君が昨日の続きでブランドショップを見てみたいと言ったので、またホエラーズ・ビレッジに足を伸ばした。朝食を遅くに補充し、時間的に昼食を取るには中途半端だったので、昨日覚えたABCストアーでポップコーンなどを買い、外でジュースと共につまんで落ち着かせた。そのまま細君はウィンドウショッピングを楽しみたいとのことだったので、私は一度部屋に戻ってひとりプールに行くことにした。この日はちょっと風が強かったので、あまり日光浴には向いていなかったが、せっかくの最後のチャンスである。少しでもマウイの空気に触れておきたいと夕方近くまでプールサイドで過ごした。時折強風が吹いて、脱いでおいたビーチサンダルが飛ばされたりもしたが、それでもマウイの綺麗な景色と落ち着いたリゾート感覚を味わいながら最後のプールサイドだ。まあ満喫したと言えば嘘になるが、それでも2度とないであろう貴重な時間であったことには違いない。
  やがて日も傾き始め夕食の時間が近づいてきた。風は段々と強くなってきている。私は細君と約束した時間にホテルの部屋に戻ってシャワーを浴びた。

 レストランはフラダンスショーに合わせて予約しておいた。マウイを訪れた人がこぞって絶賛するレストラン、フラ・グリル。予約時間少し前に到着すると、受付に日系人らしき女性もいたが殆ど日本語は出来なかった。オープンテラス風のハワイアン・ムードたっぷりのテーブルに通されると、細君がまたトイレに行きたくなった。トイレの場所を聞くと、優しげなアメリカ人男性ウェイターが丁寧に案内してくれた。トイレに行くのは構わないがオーダーを決めていかなかったので、しょうがないので先にビールを注文した。それにしても感じたのは、ここの店員はみんなよく働く。女性よりも男性が、そして日系人よりもアメリカ系の人のほうが機敏に動く。よく日本人は勤勉で真面目だと言われるが、本当にそうなのだろうかと思った。この店に人気があるのは店のもつ誠実な雰囲気にもあるのだなと実感した。それにしてもシーサイドで映画にも出てきそうな雰囲気で食事をするのは気持ちがいいものだ。私はひとりビールを飲みながらささやかな幸せに浸っていた。

 やがて細君がトイレから戻ってくると、ウェイターが親切にトイレまで案内してくれたことにいたく感動していたが、私が一人でビールを飲んでいるのを見て怒った。そう言われてもオーダーを取りに来てしまったんだから何か注文しないわけにはいかない。とりあえず細君もトイレに行って落ち着いたので、あらためて注文しなおした。今日のメインディッシュは特製ステーキだ。酒の肴にあさりのワイン蒸しを頼んだが、あさりは日本の方がおいしいだろう。料理はどれもおいしかった。が、料理以上にやはり雰囲気がいいのだろう。夕陽に照らされながら食べる食事は、周りがほとんど外国客ということもあり、異国情緒たっぷりでまた格別だ。恐らく店が持つ雰囲気、人気店であるにも関わらず、それに傲ることなく真面目に働く気が利く店員たち。きっとその辺がこの店の支持される理由なんだろうなと感じた。
 ただそのときは雰囲気に流されて、というか私は酔うとどうでもよくなる人間なので忘れていたが、フラダンスショーがどこでやってたんだがわからなかった。そのためにこの店を選んだところがあるので、店を出てから細君が文句を言っていたが、結局わからず仕舞いだった。もっともそれだけが心残りであったようで、細君も十分満足した様子だった。



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