はじめてのマウイ(その26)

 列車が駅から出発するまで多少時間がある。ただ観光のためだけだから、いたってのどかなものである。実際に乗車してみるとごくごく普通の列車である。特筆すべきことも殆ど無い。日本の観光地や遊園地にある列車とどこが違うのかと言えば、これといって違うこともない。ただ、マウイにはぴったりのひたすらのどかなのんびりとしたムードがあるだけだ。

 やがて汽車は時間とともに出発した。しかし、この列車恐ろしく遅い。きっとおばちゃんがママちゃりを必死でこいだら、隣を気持ちよく抜いていけるに違いない。それくらいに遅く感じたのは確かだ。実際に距離にして約10kmを25分かけて走るわけだから、途中駅での停車時間を考えてもせいぜい時速30kmくらいのものだろう。だからあくまでも風情を楽しむというだけのものだ。

途中ゴルフ場の中を通ったりもするのだが、あまりに遅いのでその感動もあまりない。実は名前はさとうきび列車なのだが、今はそのさとうきび畑というのは無くて、途中にわずかばかりにその名残のサトウキビを見ることが出来るだけである。それは車内アナウンスで教えてくれるのだが、実際にみると余計に淋しくなる。

 出発してしばらくは何度も行き来している幹線道路と並走するのだが、すぐ傍を車が快調に飛ばして走りぬいていく。あまりの遅さに次第に飽きてくるが、今日のメインイベントだ。そのうち検札のおばちゃんがやってきた。片道切符だというのはわかってはいたが、乗ってみて面白かったら帰りもそのまま乗って帰ってこようと思っていた。ただ実際に乗ってみてそれほど面白いとは感じなかったものの、降りてバスに乗り換えるのも面倒だなという気がしていた。乗車券は片道おとな$11.50、往復だと$15.75。チケットは片道分しかなかったが正直どうしようか悩んでいた。検札のおばちゃんにこれは片道ですかと聞いたら、そうだという。そんなことは最初からわかっていたがもしかしたらそれで往復出来るのではないかという甘い考えもあった。ただ、そこである意味念を押してしまったのでこれは終点のプウコリイ駅に着いたら降りるしかないなと覚悟を決めた。

 車内ではココナッツの販売なども回ってきた。面白みはあるがあまり買う人はいなかったようだ。ゆっくりと走る汽車にのんびりと揺られ、そのうち周りの景色を楽しみながら乗っていると最初に思っていたよりもわりと早くに終点のプウコリイ駅についたような気がする。

 さて、降りるのはいいがその前にシャトルバスがどの辺にあるのか確認しなければならない。ところがプルコリイ駅はラハイナのようなそれなりに街中の駅ではなくて、ちょうど日本でいう地方の空き地みたいなところだったので、見通しは非常に良かったのだが、それらしきバスはおろか、タクシーの姿も無い。いや、バスはあったのだが明らかに現役を引退している錆かけた鉄の塊が偉そうに陣取っている。これもまた日本で地方をドライブしたときに目にするような光景だ。ラハイナでは転回装置で機関車だけ回したが、 ここでは駅の周りをぐるっと大回りしてUターンする形だったから駅の全貌も見ることが出来たが、とにかく何も無い。特にUターンしている時などは感覚としては工事現場か草むらをトロッコで回っているような錯覚に陥るくらいに田舎というか、とにかく無人駅のように小さな駅舎すらも無いのである。これには正直驚き、こんなところで降ろされたらそれこそ帰れないなという不安に襲われた。



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