はじめてのマウイ(その15)

しかたなくホテル内のそのコンビニで買ったビールやジュース、ポップコーンやらサラミ、チーズだのと、ほとんど乾き物と言っていいつまみを持って部屋に戻った。このあとまたしても私が細君に責められたのは言うまでも無い。それでも私は景色の悪い部屋のバルコニーに避難し、煙草を吸いながらそのつまみ類を肴にビールを飲んでそれなりに満足していた。夜だから景色は見えない。夜景と言えるほど建物が建っているわけではないというか、ほとんど他の建物は見えなかったので、通りの車のヘッドライトや正面玄関前のロータリーや駐車場に入ってくる車などを眺めていた。つくづく安上がりな人間だ。恐らく煙草が無ければいらいらが募っていたに違いないが、成田の免税店でツーカートンほど買いこんでいたため、特にその心配は無かった。しかし自分が選んだチーズは名前は忘れたがまずくて食えたものではなかった。可愛そうな細君は、ジュースとお菓子という淋しい食事にむくれっぱなしではあったが、お腹の具合が悪かったため、いつもの空腹のときほどの勢いは無かった。妻に対して申し訳ないという思いはあったが、ビールを飲んで気持ちよくなった私は多少の空腹感はあったもののシャワーを浴び、またいつしか深い眠りについたのだった。

翌日、睡眠時間を十分にとったため、目覚ましより早く目が覚めた。ハワイ特有の爽やかな空気の中、また見事なマウンテンビューを見ながら一服し、飛んでくる小鳥にポップコーンの残りを上げたりしながら朝食までの時間を過ごした。今日の朝食はツアーに含まれているバイキングだ。なんとしても昨日の分も取り戻さないといけない。細君の目覚めを待って出来るだけ早い時間に行くことにした。食事場所はホテル内のプールの横にある『オノ・サーフ・バー・アンド・グリル』。オープンテラスでとても気持ちが良い。感心したのはそこで働いている人たちが結構サービス精神があるということだ。決して若いおねえちゃんたちが多いというわけではない。むしろそれなりの歳のおじさま・おばさまが多い。バイキングなので日本だったらほとんどセルフサービスになるところだが、ここは水やらコーヒーだのは店員さんが明るい笑顔と一緒に運んでくる。清清しい空気と晴れ渡った空の下、リゾート地特有の開放的な気分に浸ることが出来た。

さて、それはともかく昨日の夕食、いや昨日一日分の食事も取り返さないといけない。外国のバイキングだから洋食オンリーかと思ったら、ありがたいことにご飯と味噌汁もある。海苔とお新香もあったから下手な日本のホテルよりもずっと気が利いている。さすがは以前千昌夫がオーナーだっただけのことはある。昨日の分を取り戻すためには1回では取りきれないので3回ほど往復し、途中味噌汁等もおかわりして一気に平らげた。味はすきっ腹だったので、多少贔屓目になるかもしれないがおいしかった。ウェイターやウェイトレスが様子を見ながら何度もコーヒーなどを持ってきてくれるので、一通り食べ終わったらまた食後のコーヒーを飲みながらくつろいだ。国内の旅行でもそうなのだが、私も細君も朝食後のコーヒーというのには結構こだわっていて、これがないと今ひとつもの足りない。ある意味その時間が一番幸せを感じる時のような気さえする。非常にのどかな時間だ。

さて、相変わらず細君のお腹の調子は良くなっていないので、危なくなる前に部屋に引き返すことにした。部屋に戻る途中にまた日本語カウンターによって明日の夕食の予約を入れてもらうことにしたが、実はこれは昨日のうちから細君が考えていたことだ。ガイドブックやホームページなどで絶賛されている店なのだが、昨日歩いていったホエラーズ・ビレッジの中の一つである『フラ・グリル』。昨日の段階では混んでいて入れなかったというよりもその混雑具合から聞いてもみなかったのだが、実は細君はここでフラダンスショーを見ながら夕食をとりたいと言うのが前々からの希望であって、逆に言えばそれさえ出来ればあとは特に望むことは無かった。そんなわけで昨日の夕食にはそれほどこだわっていなかったというのもある。