はじめてのマウイ(その14)

さて、いよいよ食事が困ってきた。そもそも英語がわからないのでバーなのかレストランなのか良くわからない店もあり、しかも値段がだいぶ高いという状況でどうするかと、細君とふたり悩みながらやはり明るい方に引き返すしかないということで、また先ほど通ってきた海岸の方のレストラン群の方へ引き返したのだが、このときの選択が大きな間違いだった。
引き返してみたはいいものの先ほどと状況が大きく変わっているはずもなく、あてどもなくまたホテルまで戻ってきてしまった。もっともその時点では選択肢が限られてきていたのだから、どこかのレストランに並んで入っても良さそうなものであるが、やはり外に出ていたメニューの値段を見た時に、どうしても入りたいという気持ちにはならなかったと言うのもある。この辺が貧乏人の辛いところだ。貧乏ならマウイなんぞ行かなきゃいいものを、さりとて来てしまったんだからしょうがない。
そう言えばホテルの中にコンビニみたいなのがあったよと言う細君の一言で、じゃあそこでまたおにぎりでも買うか〜という安易な考えが私にも浮かび、あまり気の乗らない細君と共にとりあえずその店の方へ行ってみた。位置的にはフロント玄関から見ると左奥になるのだが、途中ツアーデスクとかもあり、かなり離れているのでフロントからは見えないところにある。

さて、行ってみてそれなりにジュースやビールは置いてあるのだが、その他には菓子類やおみやげ等どちらかというと日本のホテルのおみやげコーナーに近いものがある。生鮮食料品に関するものはまるで無く、いわば乾物屋みたいなものだ。これは最悪の状況だ。といって今更またレストラン街の方へ戻る気力もなく、仕方がないのでポップコーンだのチーズだのを買って今夜はこれで誤魔化そうということになった。当然細君は私が起きるのが遅いからだとカンカンだ。そうは言っても事ここに至ってはしょうがない。私は煙草を吸いながらビールが飲めればそれでいいみたいな人間なのだが、細君はほとんど酒も飲めない。そもそもお腹の調子が良くないので、その分機嫌も悪いのだが、逆にそのせいで元気が出ないところもある。今日のところはしょうがない。明日の朝食バイキングでたらふく食べようというということでなんとか機嫌をとった。ところが会計を済ませて店を出ようとしたときに、比較的若い女性の2人組がABCストアのショッピングバッグを持ってその店に入ってきた。それを細君が目ざとく見つけて、「近くにABCストアあるんじゃない?」と言うので、私は迷わずその女性たちに声をかけた。ちなみにこの女性たちはレンタカー屋にいた二人連れとは当然別人だ。

「すいません。この辺にABCストアあるんですか?」と聞いてみると、その女性たちは顔を見合わせ「この辺りには無いんじゃないかな?だいぶ遠いから車で行かないと」と言う。どうやら彼女達はどこからかの帰りだったらしい。私の見た目が若いので完璧年下扱いのようなセリフに多少カチンともきたが、知らないのだからしょうがない。それはともかく慣れないところで車を出してまで、コンビニに買い物に行こうと思うほどコンビニフリークでも無し、ましてやおにぎりやそこらのものを買うためにどこにあるかわからない店を探して車を走らせるのも不安なものがある。私達はABCストアという最後の望みの綱も絶たれ、いよいよ覚悟を決めることにした。
人と言うのは知らないことに関して他人から得た情報を安易に信用する癖がある。それだけ人が良いとも言えるのだと思うが、実はここに落とし穴があった。相手も日本の観光客である以上、どれだけ旅なれた素振をしていようとも、土地の知識としては大差無いのではないかという疑問を持つべきだった。特に偉そうにものを言う奴に限って往々にして間違った事でも平気で言うことは私の人生上、数多く経験しているのだが、このときはそこまで意識が回らなかった。
実はホテルの近くにABCストアはあった。しかも先ほど歩いていったホエラーズビレッジの中にそれはあったのだ。砂浜の方からいった場合対角線上の一番遠い位置になるのだが、表通りの方から歩けばたいした距離ではない。ただ先ほど行ったマックの方からでは完璧に死角になり、しかもブティック関連の店が並んだ奥になってしまうので、そこにコンビニがあるとは想像できなかった。いずれにしろそのことが分かったのは翌日細君がガイドブックを見たときだった。