はじめてのマウイ(その11)

さっそくホテル内の日本人デスクに行って聞いてみようと、ホテルに入って行った。正面玄関を入ると、奥のほうに滝のようなものが見える。人工的な滝なのだが綺麗なホテルだ。外から入ると一瞬中が暗く見えるが、一階はそのまま敷地内のプールやレストランに行けるように開放的な作りになっているので、外光が自然な形で入ってくる。そうは言っても、いろんな植樹がしてあるので、だいぶ暗めではあったのだが。

入口を入って向かって右側がホテルのフロントだった。まだ時間が早めだったので、それ程混んではいなかったのだが、するべきはチェックインではなく、行方不明のトランクについて相談することだったので、とりあえず日本人デスクを探すことにした。
細君はまたしてもトイレに行きたいというので、ひとりで探すことになった。フロント近くにあると思ったのだが、それらしきブースがない。フロントには既に何人かチェックインのために並んでいたので、たまたまクロークのようなところに立っていた、いかにもアメリカ人らしい女性に「日本語話せますか?」と聞いたところ、「ジャパニーズ?」とわからない風だったので「イエス」と答えると、日本人デスクのところまで連れて行ってくれた。正面玄関を挟んでフロントと反対側の向かって左側に目指す日本語カウンターはあった。

そこには見るからに日本人らしい顔をした、それでもハワイの陽気な雰囲気を漂わせた白髪交じりのおじさんが他のスタッフと談笑しながら座っていた。
私を見るとそのおじさん、「はい、どうぞ、こちらへ」という風に机の前の椅子を指し示すので、とりあえず事情を説明するべくその椅子に腰掛けた。
顔は日本人だが話し方はどうやら日系の現地人のようであった。
相手がどうしました?と聞くのが早いか、とりあえずトランクの件について訪ねてみた。

「実は今日からこちらに泊まる予定の者なんですが、空港で預けたトランクが出てこなかったので、空港職員に事情を説明したら、あとでここに届けると言ってくれたんですが、本当に大丈夫かどうか心配で。。。」というような説明を一気にした。
するとそれを聞いたそのおじさんは、
「ああ、大丈夫。ちゃんと届きますよ」と笑顔で言った。
俄かには信じがたかったので、
「はぁ」と気の無い返事をしていたら、「だいたい5時くらいにこちらに届きます」と言う。まさかすでに空港から連絡が入っているわけもなく、そもそもこちらの名前すら言っていないのにどうしてわかるんだ?という疑問があったので「そうなんですか?」と追及すると、「ああ、よくあるんですよ」と平然と言う。

『おいおい、よくあるんかい!』とこちらが驚きの表情を浮かべながら「そんなによくあるんですか?」とさらに追及すると、そのおじさん、何をびっくりしてるんだ?と言わんばかりに、「ええ、しょちゅうですよ」と言う。(しょっちゅうかい!)
『随分いい加減なんだな』と思いながらも、そのおじさんの表情はむしろそれが当たり前みたいな顔つきだ。しかも夕方こちらに到着するというのは余程確信を持っているらしく、その言葉は自信に満ちている。こちらとしてはその言葉だけで信じるには無理があるが、そもそもそのおじさんが悪いわけでもなく、それ以上そこでやりとりしてもしょうがない。
「こちらに着いたら、部屋の方へ持って行きますよ」と言うので、それじゃあお願いしますということで、先ほど止めた駐車場の件を質問した。

聞けば自分が止めた場所は先ほどのボーイさんがそれぞれ自分のスペースをもっているので、勝手に停めてると怒られちゃうという。ありゃりゃ、それじゃあ急いで移動しないといけないなと思い、とりあえず、ちょっと早めだがチェックインできるか?とか思いつくことだけ聞いて、その場を後にした。ちなみにその段階でも特に名前を聞かれたわけではないので、本当に大丈夫なのか?という心配は払拭できなかったものの、それでも事情を説明できたことで少し気は楽になった。

一通りこちらの言いたいことは言えたので、車を移動しに行こうとしたら、細君がトイレから出てきて玄関のあたりで合流したので、そのまま説明しながら車を移動した。細君に先ほど聞いたように、ここではトランクが出てこないことはよくあるらしい、ということを説明するとさすがに呆れて文句を言っていた。

さて、だいたい事情はわかった。これ以上あがいたところで何も手立てがない。ちょっと早めだがチェックイン出来そうだったので、とりあえず部屋に入ることにした。
フロントでは予約したクーポンを見せれば良かっただけなので、それほど問題は無かったのだが、実はこのとき、部屋がどこになるのか期待と不安があった。